HALO episode1

このHALO誕生のストーリーは、ある1人の男性との出会いから始まりました。


埼玉県出身の幼馴染3人で、初めて新宿ゴールデン街を訪れたのは、2017年8月16日。

1軒目の飲みを終えた僕たちは、2軒目の場所を考えながら歩いていた。

ゴールデン街って知ってる? 昔からあるディープな街らしいよ」
この言葉が誰から発せられたものなのかは曖昧な記憶。
確かなことは、3人ともゴールデン街という場所に対しての認知度がかなり低かったことだけ。

「あー、聞いたことある。面白そうじゃん。とりあえず行ってみっか」


当時、僕が声をかけた幼馴染の尾崎と久保と僕を含めた3人で、「自分達で事業を起こして宿泊施設を作りたい」その想いで集まっていた。
就職していた会社も退社し、本気で計画を立てて、時間が空けば3人で集まっていた。

でも正直、このままではマズイ。

その反面、だけど、どこか、ずっとこうしたかった。

もう後がなく、やるしかない状況に興奮していた自分を覚えている。

歩いて20分程でゴールデン街に着いた。
どれがゴールデン街なんだ?
これ全部ゴールデン街なのか?
それすらも分からなかった。
とりあえず歩いてみよう。

見た目は昔の映画に出てきそうな、細い路地にひしめき合う、お店たち。
数えきれない看板が並び、そこに外国人の観光客もたくさんいた。
どの店も入り口が小さく、店の中はほぼ見えない。じっくり見てはいけないのではと思わされるほど、なんとも言えない雰囲気だった。
二階もあるが、この細くて、急な階段を登って、中の見えないあの小さな扉を開けるのはかなりの勇気が必要だ。

結局、
「とりあえず今日はやめとくか」
そんな僕の逃げ腰な発言に2人とも同意した。

そんな結論を出した時、目の前の店の扉が開いた。
すると中から、1人の中年男性が出てきた。
自ら扉を開ける勇気がない僕らは、その扉が開いた瞬間に少しでもその店の中がどんな様子か見ようと、店内に目を向けた。
その時、僕はその男性と目が合った。

「君たち、ゴールデン街初めてなの?」

「はい。でももう、帰ろうと思っていたところです」

「じゃあ、僕が知ってるゴールデン街で一番怖いママのお店に連れてってあげるよ」

そう肩を掴まれ、共に歩き始めた。
"見知らぬ人について行ってはいけない"その教えを守って生きてきた僕からすると、この時なぜ、断らずついて行ったのか、そこだけが今になっても不思議だ。
ただ直感的に、細身で身嗜みもキチッとしていて、中性的なこの男性に、僕の防衛本能は作動しなかった。

その男性が足を止めた場所は、隣の路地の、扉に「花の木」とだけ書いてある、中が一切見えない、年季の入った、古そうなお店。

これは、"中が見えて、明るい感じで、入りやすい"という僕の最初の条件から一番遠いお店だった。

「大丈夫か?」
心の声がする。

そんな僕の気持ちはお構いなしで、その男性は扉を開けて店に入った。
「そこで会ったゴールデン街初めての若者を連れて来たの」

「あら、いらっしゃい」

そこには、怖いと聞いていたママ……ではなく、パーマ頭とメガネが特徴の独特な雰囲気をもつ細身の老婆がとても柔らかい笑顔で立っていた。
まるで、ジブリの世界に迷いこんだ様な感覚になり、扉が閉まると今までいた外の世界とは全く違う空間にいる気分だった。

店内は薄暗く、ママの横にはアシスタントの女性がいて、棚にはニッカのウィスキーがズラリと一面に並んでいる。
ボトルには名前のついた札が下がっていた。
メニューも無く、なにを頼めばいいのかというより、もうウィスキーしかないのだと思い、3人共ウィスキーを頼んだ。
店内には、確実に人生の大先輩だと分かる男性が一人、キープボトルのウィスキーロックを静かに飲んでいた。
お通しは、ママの手作りであろう料理が出た。

「あなた達はなにをしている人なの?」

ママは、とても品がある独特なアクセントの喋り方。
それが心地よくて、つい僕も熱くなり、今の僕らの状況と、今後の思いを語った。

「私は長くここで店をやっていて、多くの人を見てきたから、分かるの。
あなた達なら出来るわ。
私が見込んだ人達はほんとんどの人が成功しているわよね?」
そう、その男性に話を振った。

この時ママがくれた
「あなた達には出来るわ。」
この言葉には、鳥肌が立ち、心が震えた。
アドレナリンの様なエネルギーが溢れた。

これまでもいろんな人に色んな意見をもらった。もちろんそれぞれがとても有り難い意見だと思っている。
ただ、ママのこの一言は、何回思い返しても、その時のテンションで自分に突き刺さり、エネルギーをくれる。魔法の言葉だ。

最初の不安など、嘘だった様にすっかり落ち着き、話に夢中になっていると、気づけば終電の時間が迫っていた。

話の流れの中で、ママのアシスタントの方が舞台女優さんで、舞台の稽古が始まるから10月のアシスタントが足らなくなることが分かった。
その時尾崎が「私ママに弟子入りしたいです」と言った。
からしたら、意外な発言だった。
尾崎もまたママの魅力に惹かれていたのだろう。
尾崎はこの年8月6日に、7年勤めた会社を退社したばかり。退社する前では、絶対に出なかった返事だと思う。

そして、この尾崎の選択がHALOが誕生するまでの大きな一歩になっている事に、この時の僕らは想像もしていなかった。